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旅のおと10 - 最終回

Words & Photos By Masanori Nishikawa

10回にわたり、僕の自転車旅のはじまりから、今を丁寧にまとめていただいた連載【旅のおと】今回で最終回となります。

自転車旅をはじめたのが22歳、そして今が43歳、約20年にわたる自転車旅人生を綴ってきました。次へ次へと歩み続けてきた僕なので、あれはいつだったかな?と記録を見返したり、旅の写真をハードディスクから探したり、ここまで丁寧に自分の歩みをたどっていったこと無かったので、本当にいい機会となりました。

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2007年。最初の旅の写真をもう一度。

こんなにたくさんになってきて、読んでくださる方いるんだろうか?と不安に思いながらも続けてきたこの連載ですが、まとめとしての最終回いってみましょう。

今となっては、「あれ?現実だったよな?」と一瞬自分の記憶を確かめたくなるように思うコロナの日々。
あの期間はさすがに僕もどうしようかなーと壁にぶつかった気分でした。20年近く続けてきた旅の人生の中で、「いつでも自分の心が動いたときに、そこに行ったり、誰かに会いにいったりできる」ことを大切に生きてたのに、それができない日々がやってきました。

そして、コロナ中の社会は、僕が大切にしてきた「人と人が関わり助け合い生きていく」こととはまったく逆の「人とは関わらず閉じこもってください」がスタンダードな世の中となりました。

どうしたものかと思いました。フットワークが持ち味だった僕の得意技が封印されてしまった。あれだけたくさんの学校をまわらせてもらった講演会もまったく無くなりました。生活の不安ももちろんありましたが、それ以上に、このコロナ禍で自分にはどんな役割ができるだろうとずいぶん頭を悩ませました。

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実はコロナ禍に入る直前、僕は民主化デモが続く香港のど真ん中でフリーコーヒーをしていたんです。そこには、自分たちで社会をつくっていきたい、自分たちが過ごしてきた自由を次の世代に残したいと若者が立ち上がっていました。

そんな思いに、心震えた僕が現地の方々にコーヒーを飲んでもらいたくて出かけたのですが、それが大きな渦となって社会現象のようになったんです。たったひとりではじめた香港でのフリーコーヒー。気づけば若者たちが集まりチームとなり僕をサポートしてくれるんです。気づけば何百人の人たちが僕のまわりを囲み、お互いの思いを語り合いました。

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「たった1杯のコーヒーには世界をつなげるチカラがある」そう僕が心に刻んだ瞬間でした。そしてみんなが自分ごととして立ち上がっている社会の可能性。ひとりごとが、気づけばみんなごとになっている。そこに必要なのは、まっすぐな思い、そして行動。

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あのとき僕は「フリーコーヒーの可能性にかけてみたい」と本気で思っていました。
世界中の街を自転車でまわり、路上でフリーコーヒーをしながら、世界を繋げたい。
あらゆるものが分けられ、線が引かれ、自分の承認欲求のために誰かを否定することが当たり前になっているこの世の中。そんな世の中で、たった1杯のコーヒーが、それで生まれる「心の余白」が、ひとの心と心をつなげることができる。それを証明したかったんです。

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また新たな人生をかける挑戦がはじまった、と決意して香港から日本に帰ってきた直後でした。コロナでロックダウンがかかったのが。だから余計にショックだったのかもしれません。(香港でのフリーコーヒーで見た世界は本当に自分の人生の支えとなるようなものだったのですが、今回はまとめきれずまたいつかの機会に)

けれど。もしコロナが来ていなかったら、僕はきっといまも世界のどこかでフリーコーヒーをして、たくさんの人に自分の願う世界を見てもらうことにとにかく人生を注いでいて。たぶん結婚もしていなかっただろうし、子どもを授かることなんてなかったんだろうなぁと思うんです。

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「会いたい人には会えなくても、とにかく僕の心のこもったコーヒーなら届けることができる」と、SNSを通してお知らせをして、自分で豆を焙煎してつくったドリップパックをとにかく国内外にたくさん発送したり、コロナ禍で大変なことになっている病院などにまとめてドリップパックを送らせてもらったりしました。

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そうしながらもどこか心はソワソワしていて、何かないものかと家の片付けをしていたときに、農業倉庫のなかに出店の屋台が置いてあるのを見つけたんです。親に聞くと友人から祭りで使うからと預かっているものとのことでした。何年もそうしてあるので、僕が使わせてもらえないかを尋ねてもらうと、快くOKしてくださいました。

よし、やるか。フリーコーヒー。どこにも行けないなら、僕がここでみんなを迎える場をつくればいい。思い立ったらあとは、やるだけです。僕の家の庭に屋台をすえて、客席をセッティングして、どんな方でも集えるフリーコーヒーの場をつくる。これが西川自由珈琲店のはじまりです。
ちょうどコロナのロックダウンも解除されて、けれども人と人の関わりには、みなさんがまだドキドキされているころでした。

誰でもお越しください。
屋外。空の下。そして僕が住んでいるのは田舎なので密になることもありません。
誰でも集える、誰もが安心して来られる、1杯のコーヒーをとおして人がつながれる、心が安らぐ場所。そしてそんな日々をSN Sを通してみなさんに見てもらおう。
みなさんの心がカチカチと冷え固まっているかもしれないこの世の中で。
せめて西川自由珈琲店では、ちょっと浮き足立っているような、あたたかで、のびやかで、このコロナ禍でほんまにこんな場所あるんかいな?と思ってもらえるような心安らかな場をつくり、それを見守ってもらうことをやっていこう。
ぼくの新たなチャレンジがはじまりました。

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近所のばあちゃんがこの場所を居場所として毎日通ってくれるようになりました。
この場を通して出会った人たちが、新たな仲間を連れて帰ってきてくれるようになりました。たくさん人が来てくれるときもあるし、誰も来ない日もときどきある。けれども自分たちがこうであってほしい世界を、この場をとおしてつくっていこう。そうして続けていきました。コロナ禍であっても、子どもたちにとっては一生に一度の夏だとマウンテンバイクジャーニーもやると決め、ドキドキしながらも無事に終えることができました。

気づけば、旅のあいだ、何もないときに休みに帰るくらいの感覚だった僕の地元でありお家が、たくさんの仲間たちが集い、さあ今度はどんなおもしろいことをやろうかとみんなで考えるみんなの場になっていました。2026年までのあいだに、熊本で暮らした2年もありますが、コロナから僕は旅が中心の暮らしから、暮らしが中心で旅にも出る日々になりました。

結婚をして。子どもを授かり。ますます暮らしと子育てに自分を注ぐようになりました。
自分の家族とも、地域の方々とも関わるようになりました。
そうすると思うことたくさんあるんです。あぁ僕って旅ばかりしていたから、ちょうどよい距離感で人と関われるように調整したりできてたんやなぁ。家族がお家を守ってくれていたから、安心して旅にも出ることができてたんやなぁ。村も行事や祭りも、家々のみなさんが助け合いをしながら守ってきたんやなぁ。

そして何より。自分が子どもを持ち、育てることは、自分がそれまで見ていた世界の感覚を思い出せないくらいに、世界の見方を変えました。いまでは旅をしていないときには、毎日子どもをおんぶしながら洗濯物を干したり、料理をしたりしています。昨日は近所に住む92歳のばあちゃんに頼まれて草刈りをして、トラクターに乗って田んぼを耕していました。今日は奥さんに3人の子を見てもらいながら、マクドナルドでこの原稿を書いています。

「自分」が見てみたい世界や自分のために自転車旅をはじめた「僕」。
そうして世界をまわり、旅のスタイルを変化させ、家族や子どもができた「僕」。
「こんな世界であってほしい」
そうして思い描く世界の姿はあのころも、いまも大きくは変わっていないかもしれません。

あのころのように世界を自転車で走り回ることはできなくなったけれど。
けれどあのころには見えなかった世界が、いまこうして子育てをしながら同じ場所で暮らす自分には見えるようになりました。

命がつながってきたように。
誰かが守ってきてくれたからこそこれまで続いてきたことがこの世界にはたくさんある。
だからこそ、自分は自分の子たちや、これからこの世界を羽ばたいていくであろう子たちのためにいったいどんなことができるのだろう。
僕たちが次の世代の重荷になるような宿題ばかりを残していくのではなく、次の世代の子たちが思う存分、夢を思い描き、そして羽ばたいていくことができるような世の中にしていくために、いったい自分はどんなことができるのだろう。

それは決して、政府の誰かや、大きな役割を担う会社や人たちだけが担うのではなく。
今日という1日を。
私たちがどんな思いで、どんな表情で、どんな姿で生きているのか。
そんなふうに思うのです。

自転車は無風の日にも、風を運んでくれます。
旅は自分の知らない自分を、世界を見せてくれます。
僕は自転車という乗り物で旅ができて、人生を過ごすことができて幸せです。
いつだって自分は、世界は、変わることができるかもしれないという、そんな希望を自転車旅の年月が僕に届けてくれたから。

これからも自分に悩みながら、家族とケンカもしながら、全国の子たちを旅に連れ出しながら、今日という日を、僕は希望を心に宿して、みなさんとともに生きていきます。

立ち止まりそうなときには。
自転車に乗ってみましょう。
旅に出てみましょう。

きっときっと。そこには何かのおとが聞こえてくるはず。
どうしようもない世界かもしれないけれど。
けれど。ともに生きましょう。

(終わり)

たった2回だったはずの連載提案なのに、10回書かせてほしいというわがままを受けれてくださったサークルズ代表の田中さん、ほんとうにありがとうございました。そして、最後までこの連載にお付き合いくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました。また旅の空のもとで、お会いしましょう。

西川昌徳